わたし歩記-あるき-

心理カウンセラーでもある写真家のブログです

鏡転移と理想化転移

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 子どもにとって、その子の一生涯の人間関係を左右してしまう「愛着」を獲得するには、0歳から2歳までの間に、養育者からの心身ともに適切なタイミングでの「共感」を得ることが必要となります。では、具体的にこの「共感」が、子どもにとってどんな”生きる術”を身に着けることに役だっているのかを今日は書きたいと思います。

 

 

 自己心理学者のコフートは、『bad mother theory』の中で、母親から子どもに対しての「共感」について、以下ように述べています。

 

 

「新生児は、心理的ニードと期待をこまやかに感じ取ってくれる共感的環境を、何のためらいもなく当てにしている。そして、この心理的ニードに共感的な応答が与えられて、子は自分らしさを発揮させていく。共感を求める心理は生得的で、しかも生涯にわたって続く。しかし、母親から共感が得られないと、自己の発達は停止して精神病理が生じる。」

 

 

 コフートは、母親が乳幼児に対して持つ役割を、「鏡映化」と呼んでいます。

 

 例えば、「お腹が空いたよ」と子どもが泣いたとして、「おっぱい」のニードを感じ取った母親は、「お腹が空いたのね。可哀そうに。よしよし、これからおっぱいをあげるからね」と、自分も悲しい顔をして、その子どもを抱き上げます。その時、子どもの目には、自分の空腹の悲しみを共に感じてくれている母親の姿がしっかりと映っています。その後、お腹がいっぱいになった子どもは、安堵に包まれ、満足そうに笑います。その様子を見つめている母親も、「お腹いっぱいになったのね!良かった!なんて、可愛らしい笑顔なのかしら!」と至福に包まれています。その様子を見た子どもは、「ボクが満足すると、お母さんは喜ぶのか!ボクはなんて素晴らしい存在なのだろう!」と、その後も安心して母親に「お腹が空いた」と健康的な自己主張ができるようになります。

 

 この健全な自己主張・自己顕示は、「野心の極」と呼ばれており、自我親和的な野心・目標・目的を追求する能力、生活を楽しみ、安定した自己評価の獲得へと繋がります。しかし、母親から「共感(鏡映化)」が得られずに、この「野心の極」に傷つきが起きると、自己への承認とそれを与えてくれる「鏡映化対象(母親の代わり)」を生涯かけて探し求め続けることになります(鏡転移)。

 

 

 一方、コフートは、この「野心の極」が完成した上で、その後の父親による「理想化機能」=「理想の極」についても言及しています。

 

 「理想の極」とは、「社会性の獲得」のことです。父親への理想化とは、母親との関りで得た「野心の極」で、健全な自己顕示を身に着けた子どもが、「自分は完璧だと思っていたけど、そうではなかった。でも父親は完全で、完璧な存在だ」と、父親から倫理規範を学び、その力強い父性を自己の内側に同一化していくことです。ちなみに、父親から4歳~6歳になるぐらいまでに学んだ倫理規範を疑い、内在化させ、再構築していく過程がいわゆる思春期の反抗期と呼ばれている現象です。

 

しかし、親を理想化できないと、無力感が生じ、これを埋め合わせようと、理想化できる自己対象を生涯に渡って探し続けることになってしまいます理想化転移)。

 

 

 

 この仕組みを知った時、わたしにとって、これまで特に困難だった人間関係の多くが、この「鏡転移」と「理想化転移」の拗らせが原因であったことが理解できました。恐らくは、多くの愛着障害の方や、複雑性トラウマの傷を負った方にも、この傾向は少なからずあるはずでしょう。

 

 

 オウム真理教の事件があった時、「学歴もあって、それなりのキャリアもある人達が、どうしてあんな教祖に簡単に騙されたんだろう?」と疑問を抱いた方も多かったと思いますが、恐らく、被害者の多くに、「鏡映化」と「理想化」の過程に傷があり、たまたまそれを満たしてくれる自己対象となったのが、あの教祖だったのかも知れません。不幸中の幸いで、オウム真理教の事件は報道で世間で広く知られることになりましたが、表面に上がってこないケースも多くあるではないかと推測します(例えば、胡散臭い拝金主義のビジネスメンターや、似非スピリチュアル教祖に大金をつぎ込んで無駄にしてしまう人や、MLMなどにハマりやすい人も、この傾向が強いと思われます)。

 

 

 この「鏡転移」と「理想化転移」の罠に気づかないことで、何が一番の問題かと言えば、同じようなパターン(支配・被支配)の人間関係を繰り返しやすいことだと思います。わたしが密かに見守っている方たちの中にも、「確かこの教祖で懲りたんだよね?」と思いきや、また似たような人(教祖タイプのリーダー)に時間とお金を割いている人が、かなりの数いらっしゃいます。これ、(わたしがそうでしたから分かるのですが)外から言っても本人は意固地になるだけなんですよね・・・。(泣)早く戻っておいで~と、祈るばかりです。そして、(相手がそれを望むならですが)変わらずに戻れる場所だけは、用意していたいと思っています(わたしもかつてあれこれ”ブレブレ”だった時期、結果、それが一番ありがたかったので。)。

 

 

 この記事を書こうと思っていた矢先、Twitterでタイムリーに、こんな記事が流れてきました。

 

http://flat9.blog.jp/archives/87561198.html

 

 

 数年前から、臨床現場で胡散臭いネットビジネス商法や、スピリチュアル詐欺で心身を崩壊してしまった方の相談案件が増えつつあるという話を耳にしてはきましたが、ついに表面化して報道されるようになったのだなあ・・と感慨深かったです。

 

 

 クラファンなどをはじめとする、昨今流行りのファンビジネスですが、どこにその倫理規定を設けて良いものやら、実に考えさせられる事例だと思いました。

 

 

きょうも最後までお読みくださりありがとうございました。

 

写真家・認定心理士,産業カウンセラー
さとうみゆき

 

 

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