わたし歩記-あるき-

心と向き合う写真家の学びの記録*

生きやすくなるとは耐性の窓が広がること

 

 前回の記事の最後で少しだけ触れた「耐性の窓」について今日は書きたいと思います。 

 

 

hanahiroinoniwa.hatenablog.com

 

 

 私たちの自律神経系というのは実に優秀で、例えば「安心・安全」な場所に居て、リラックスできている状態の時には社会性を促す副交感神経の中の腹側迷走神経複合体が働き、不意な「危険」に直面した時には、「逃げる・闘う」を促す、交感神経系が直ちに優位になります。そして、もし、闘うことも逃げ切ることもできない場合には、身体や心に及ぶ痛みや傷を最小限にするために、「凍り付き」や「シャットダウン」モードを促す副交感神経の中の背側迷走神経複合体が優位になります。このブログでも何度か触れている”ポリヴェーガル理論”に基づく内容ですので、ご興味のある方は、ぜひステファン・W・ポージェス博士の著書を読んでみてください。

 

 

 

 

 さて、「耐性の窓」についてですが、これはストレスの許容範囲の考え方で、ダニエル・J・シーゲル博士によって命名されました。図に表すと以下のようになっています。

 

 

耐性の窓

Life By Desing Therapy様より引用

 

 

 

 日常、私たちは、緊張(交感神経)と弛緩(副交感神経)の間を行ったり来たりして過ごしています。よくリラックスするためには副交感神経が大事だからと、交感神経が悪者にされがちですが、決してそうではなく、適度な緊張があることで、やる気が出て仕事が捗ったり、危ない場面をすばやく回避できたりします。逆に、副交感神経系の中でも、”休息”を促す背側迷走神経複合体が過剰に働き、低覚醒となってしまうことで、うつ状態やPTSDに陥ってしまうことがあります。要するに、過覚醒と低覚醒の両極に留まり続けてしまうことが問題で、どちらに移動したとしても、またニュートラルな状態に戻って来られることが理想です。

 

 

 このニュートラルであれる状態の範囲を「耐性の窓」と説明したら分かりやすいでしょうか?上の図のグリーンの線で囲まれた範囲がそうです。神経系がこの範囲の状態である時、副交感神経の中の腹側迷走神経複合体が優位に働いています。この腹側迷走神経複合体は、人間の社会性を促し、人と穏やかに繋がれる状態をもたらします。

 

 

 では、仮に、この「耐性の窓」の幅が極端に狭い場合はどうでしょうか?日常の些細なことで、自律神経系はたやすく「攻撃性」側に触れたり、反対に「凍り付き」モードに突入しやすくなってしまいます。つまり、これこそが生きづらさの正体です。

 

 

 例えば、かつて私の「耐性の窓」の幅が狭かった頃、こんなことがありました。

 

だいぶ昔、仕事で私も含めメンバー3人で、車で移動することが多かった時期がありました。ドライバーは当然ながら車の所有者であるAさんです。Bさんとわたしはいつも乗せてもらう立場でした。ところがどういうわけか、助手席に座るのはいつもBさんで、わたしは後部座席に座るのが常でした。前の座席では、AさんとBさんが、あたかも後ろに私がいることなどすっかり忘れたかのように、何やら親し気に込み入った会話をしています。それをいつも背後から、必死にキャッチアップしようとしている私・・・。心の中はいつもこんな攻撃的なセルフトークで溢れていました。

 

「ここに私だっているんですけど?!」
「無視してんじゃねーよ!」
「私の意見はどうでもいいわけ?!」

 

そして、仕事が終わって家に帰ると、どっと嫌な疲れに見舞われます。

心の中には、

 

「もうあの人たちと居られない。ひとりでいたい。」
「自分が情けない。みじめだ。消えたい。」
「こんな仕事もうやめたい。」
「わたしなんて、いてもいなくてもどっちでもいいんだよね?」

 

 

等の、抑うつ、凍り付きモードのセルフトークが噴出。そして、数日から数週間にわたり、この状態を引きずってしまい、現場に居づらくなっていったわたしは、実際しばらくして、その仕事を続けることも、AさんBさんとも一緒に居られなくなってしまったのでした。

 

 

今だからスラスラと書けていますが、当時はその感情を抑圧するのに精一杯で、悔しくて、情けなくて、文字にするのも屈辱的だと感じていた出来事です。「耐性の窓」がヘルシーな方にとっては、「なんでそんなことで?!」と首を捻ってしまうような内容ではないでしょうか?^^;(ちなみに、自律神経系の視点を持っておらず、“なんでそんなことで?!”のタイプのカウンセラーに当たるとクライエントは非常に不幸になります。)

 

 

この状態は、わたしの「耐性の窓」の許容範囲が狭く、自律神経系のサーモスタットの働きが弱いがゆえに、攻撃性と抑うつ性に簡単に振れてしまい起きていた状況でした。そして悲しいかな、このような事態は一度では終わらず、人を変え、状況を変え、何度も、何度もわたしの人生に現れては、すべてを破壊・押し流してしまってきたのでした。

 

 

ですが、わたしはその原因を、自律神経系の「耐性の窓」の脆弱性の問題ではなく、長年、「自分の性格」の問題と見なし、どうにかしようと必死でした。「性格」を治そう、自分を変えようとするせいで、かえって自分に自信を無くし、自己肯定感を傷つけているとも知らずに・・です。本当にアプローチすべきだった対象は、自律神経系の方だったのに。

 

 

 愛着障害の方や、発達性トラウマに悩んで居られる方の多くが、恐らくですが、この負のループにハマってしまっているのではないかと推察します。

 

 

 先ずは、自分の自律神経系のクセを知ることから始めてみてください。必ず何らかのパターンや、似た傾向があるはずです。そして、そのパターンは、あなたの性格が悪いことが理由ではないことを先ずは知ってください。むしろ、あなたの人格のシステムを守るために生み出された「パーツ(副人格)」である可能性が高いのです。

 

 

「ここに私だっているんですけど?!」
「無視してんじゃねーよ!」
「私の意見はどうでもいいわけ?!」

 

とあの日叫んでいたパーツは、無視された気分を味わって、どうしようもなく悲しくなっているパーツを守るために立ち上がってくれていた保護者のパーツでした。そのパーツが怒ってくれていたからこそ、「もう消えたい」と凍り付いてしまいそうになっていたパーツがギリギリのところで守られていたのです。

 

 

 IFS(内的家族システム療法)やSE™など、ポリヴェーガル理論を土台にしたセラピーに関しては、ようやくこの10年ほどで日本でも注目され始め、翻訳された著書も市場に出回るようになりました。カウンセラーやセラピストとの関係性も良好であるのに、寛解の気配が見えてこない・・そんな方に、何かしらヒントとなれば幸いです。

 

*補足
6月19日(午後21時より)に放送されるNHKスペシャルの中で、性暴力被害によるトラウマの重さについてポリヴェーガル理論を踏まえた視点から、取り上げられることになったとのこと。数々の海外のトラウマ関連の著書を翻訳されておられる花丘ちぐさ先生がご出演されます。

 

 

 以下に、おすすめの2冊をご紹介します。

 

IFSによるカウンセリングの仕組みがよく分かります。

 

 

明日6月16日14時から
どなたでも参加できます♪



 

愛着に傷つきを持つ方のピアグループ
ありおりカフェ、
繊細な方のための読書会、
句会等の開催のご案内はこちらから・・。

 

hanahiroinoniwa.com

 

写真を眺めてほっと一息^^  

 

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