先日、YouTubeを流し見していた時のこと、登録も何もしていないのに、恐らくはアルゴリズムか何かでしょうか?ある女性の本の出版記念インタビューの動画が流れてきました。いつもだったら、「もう~、頼んでないのに、また勝手に~!」とスキップしてしまうのですけど、画面の向こう側から、
「ある時から、左脳で考えるのをやめたんです・・そうしたら・・」
というフレーズが。最近、脳に関する講座をしたからアルゴリズムに興味があると判断されたんだな・・と理解したのと同時に、悔しいけど、続きが気になってしまい、ついつい配信に引き込まれてしまったのでした。
著書の紹介を元に、その著者の主張を簡単に要約すると・・・
「ある時、左脳主導だった思考が消えた。すると、あれこれ悩んでいたぐるぐる思考がなくなって、右脳だけで生きられるようになった。そうしたら、ストレスが一切なくなって、心が自由になって、ハッピーになった。この状態になった後、不思議なものが見えたり、神秘体験をしたり、すべてがひとつと感じられるようになった。私が紹介する方法を試せば、あなたもこのような状態になれます!」
ということだと思う。
そうなれたらどんなにいいかしら・・・!
5~6年前くらいの私だったら、この本に、一目散に飛び付いていたのかも知れません。実際、本が売れない今のご時世では驚くほどの「☆☆☆☆」いいね数です。
ところが、今の私はどうか?と言うと、「ん?」という一抹の違和感を感じ取っているのでした。
ひょっとしたら、先日私の講座を受けてくださった方の中には、著書の紹介文を読んで、同様の違和感を感じてくださっている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
先ず、最初にお断りしておきますが、著者の方が自身の癒しのプロセスの中で体験したことの真意を問うつもりはありません。
不思議な体験も、神秘的な出来事も、その方自身のものだし、ご本人にとっての真実であることは疑いようのないことです。
ただ、同じエクササイズをしたからと言って、その方のように、ストレスが一切なくなって、神秘体験が出来るか?と言うと、それはまた別の話になると思います。
私が一番違和感を覚えた点は、
「ストレスを感じる左脳の思考を止めたら、ハッピーになった」
という部分です。
これはですね・・・・ご本人は「左脳を止めた」と仰っているのだけれど、「止めた」わけではなく、正確には、「左脳と右脳」がスーパーラーニング状態といって、双方が同時に偏りなく稼働した・・・という状態なのだと思います。
つまり、左脳が完全に停止したというわけではなく、右脳と和解した状態で、共に手を携えて協力・協働した状態のことです。ちなみに、7歳までの子どもは、常にこのスーパーラーニング状態だと言われております。
だけど、ご本人は「左脳を追い出した」、「左脳を黙らせた」と言う表現が多く、これでは「左脳=悪者」と受け取られてしまいかねない。まるで、「交感神経=悪者」の構図と同じように。
ご本人は良いのです。だって、スーパーラーニングなゾーンの状態に入ってるので。でも、著者を真似して自分もそんなハッピーな状態になりたい!と願っている方はどうかと言えば、「右脳」有意な自分を目指して、やれ、「身体の声だけを聴こう!」となってしまう。その「身体」と自分が、しっかり繋がっているか?いないのか?に、まだ気づいていないかも知れない人たちが大半かも知れないのに・・・・。
そして行き着くところは、改善しようとしていた現状よりも、さらにひどい自己否定の暴風雨の中です。(←ちなみに私はこのループに過去何度もハマっていましたね^^;)
本のレビューには、賞賛の内容が多い中で、ただひとりだけ、的確に問題点を指摘されていた方がいらっしゃいました。以下に一部抜粋してご紹介します。
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Kindle Unlimitedにあったのでさーっと読みました。
人は右脳で体験し(五感の情報そのまま)、左脳で解釈・消化(エピソードとして言語化)します。そうすることで毎日を過去にしていきます。
トラウマとはあまりの恐怖に思考が停止してしまい、五感の体験がそのまま保存された右脳に偏っている状態です。
なのでフラッシュバックで同じ出来事を今起こっているかのように、何度も再体験することになります。
それを言語化して過去のものに変えていくのがカウンセリングです。
右脳と左脳のバランスを取る(左脳を介入させる)ために、目を動かすEMDR、左右から交互に音が流れるバイオラテラル音楽、タッピングなど身体を使う方法もあります。
レム睡眠中も眼球を左右に高速で動かすことで、両脳を使って日中の記憶の処理をしていると言われています(視神経は脳に直接つながっている)。
大切なのはどちらかの脳に偏らないことです。
(参考にしたのはヴァンデアコーク、ピーターラヴィーン、デイビッドグランド、精神科医のPTSD関連の書籍です)
左脳を敵のように書いてますが、左脳を使わないと時間は流れていきません。
嬉しい出来事はそのまま体験、保存してもいいかもしれませんが、嫌な出来事は言葉で解釈して友達や家族に話してSNSに書くことで忘れます。そしてプチトラウマになるような辛い出来事は毎日至る所で起こるのです。マインドフルネスの元になったヴィパッサナー瞑想には、ラベリングというその場で出来事を言語化していくようなメソッドすらあります。
大事なのは、言語化、思考しないことではなく、判断しないことです。マインドフルネスとは右脳を使うことではなくノットジャッジです。
嬉しいことも悲しいことも全てをありのまま受け入れて、サラサラと受け流していくオープンマインドな姿勢です。喜びを善、悲しみを悪と決めず、嬉しさに執着、辛さを拒絶しないフラットな態度です。また、思考に巻き込まれた時に呼吸や体を使って今につながるテクニックはありますが、思考は無くなりません。
マインドフルネスになると思考が消えてハッピーになるのではなく、どんな感情も思考も受け止められるようしなやかに強くなるのです。
そのためにはやはり頭(両脳)、心、体をバランスよく使わなければなりません。スピリチュアルや心理学でもよく話題になる “統合” です。マインドフルネスの提唱者ジョンガバットジンは、マインドフルネスをアウェアネスと言い換えています。それは思考を放棄することではなくモニタリングすることです。
思考に気づき続けることで、自分を傷つける考え方を手放せるのです。どのような思考も存在を認めてそのまま受け入れたら、自ずと弱まり消えていきます。
そうする内に余計な思考は出てこなくなります。必要な思考も生まれてはすぐ消え、留まらなくなります。思考がなくなるのではなく、思考を保たなくなるのです。思考と共存し心地よく暮らせるようになります。
自分の中に確実にある左脳や日々生まれてくる思考を敵とみなし、否定する生き方に心地よさってあるんでしょうか。
この本では感じることに重点が置かれていますが、考えて忘れることも大事です。直感を信じることも、じっくり考えて結論を出すことも同様に尊いのです。必要なのは思考をラジオのように聞き流しつつ自分に寄り添う技術であり、この本のように愛してるから静かに!と説き伏せて左脳を無理やり黙らせることではありません。
怒ったり嬉しかったりと興奮して話したいことがたくさんある時に、どうして欲しいかを考えれば自ずとすべきことは見えるはずです。
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たくさんの盛り上がっている感想の中で、ぽつんとあったこのレビューは、恐らく、人から省みられる可能性は、限りなく少ないでしょう。うるさいな!水を差すなよ!って思ってしまいますよね。何を小難しいこと言ってるんだ!って。専門家ぶってうるさいよ!お前たちみたいなのがいるから、いつまでたっても、本当の癒しが起こらないんだよって。数年前の私だったら、絶対に思って無視してたと思う。
ですが、上記のような基本手続きを、一歩一歩ちゃんと踏んで、向き合って、何をやっても改善されなかった愛着トラウマから回復してきた者としてはね・・・。かつては聴く耳を持てなくてごめんなさい・・・という気持ちでいっぱいになったのでした。
生きづらさで苦しんでいる人が回復するのなら、私は方法はなんだっていいと思っています。これは、本当に、心から。
けれど、自分の内側にある、今は「悪」だと思えて仕方がない部分さえ、実は回復のための大きなリソースであり、追い払おう、駆逐してしまおうとしたものは、早晩、「私に気づいて!」と必ず哀しみの牙をむいてきます。すべて必要なのです。
hanahiroinoniwa.hatenablog.com
この記事が、あなたがほんの少しだけ、立ち止まって考えるきっかけとなったら嬉しいです。
きょうも最後までお読みくださりありがとうございました。
写真家・認定心理士,産業カウンセラー
さとうみゆき
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