20代後半の頃のお話です。
紅茶の美味しさに目覚め、某協会でインストラクターとなり活動していたことがありました。そこではお上品な方を対象にした大使館等で開催されるセミナーのアシスタントとして働いていました。
しばらくして、「紅茶って確かに王室御用達だったり、生産者へのリスペクトは必要だけれど、崇高化するものでもなくて、日常に溶け込んだものでよくない?」と思い、その協会を辞め、紅茶研究家の有名なI先生がプロデュースしたテイーハウスの銀座1号店で働き始めたのでした。(後にも先にも、飲食店で働いたのはこれが最初で最後。)
ある時、店長とI先生とで都内の某紅茶専門店でお茶をした時のことでした。
ヌワラエリヤをオーダーしたI先生に対して、店員の方が、
「ミルクとレモンはいかがしますか?」
と尋ねました。先生は、「ストレートで大丈夫ですよ」と、にこやかに応えていました。その顛末を見ていた店長が小さな声で、
「先生、ここ、紅茶専門店ですよね?ヌワラエリヤにミルクとレモンってあり得ない・・・教えて差し上げなくてもいいんですか?」
と、皮肉も込めて囁きました。ちなみにヌワラエリヤというのは、スリランカの高地で栽培されている高級茶で、色味は薄い黄金色。風味は日本茶に近く、ストレートで飲むのが最も美味しいと、紅茶通であれば誰もが知っている常識なのです。
店長のささやきを聴いたI先生はこう言いました。
「特に問題ありません。紅茶は楽しく飲めばそれでいいんですから。」と。
その返答を聴いた時に、何と言うか、雷に打たれたかのような気持ちになったのを今でも覚えています。先生は、紅茶も心底お好きだけれど、紅茶のある風景、生活、時間すべてを愛してらっしゃるんだな・・と、未熟心にも敬服したものでした。そしてこう言う先生の下で学べることを誇らしく感じました。
いま、出会った頃の先生と同世代になったわたし。それなりに人生の専門分野を深めてきた年齢になった今だからこそ、ひとことモノ申したくなるたびに、あの時のI先生の返答を思い出すようにしています。
実るほど頭を垂れる稲穂かな
この言葉の示す在り方が、この先益々、試されてくるときだと思っています。
そして、そのスタンスで自分と接してくださる方のことは、年齢に関係なく、やはり尊敬してしまいます。
きょうも最後までお読みくださりありがとうございました。
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写真家・認定心理士,産業カウンセラー
さとうみゆき
写真を眺めてほっと一息^^
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