わたし歩記-あるき-

*心理士を目指す写真家の学びの記録*

他人事から人間事へ

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 散歩中、小さいけれど確かな春萌えを感じて嬉しくなりました。

 

 「お父さん、もしかしたら私たちに止めている情報があるかもしれない。どうも肝心な情報だけが降りてこない気がする・・・」

 

 

 母から妙なメールが来たのは一昨日の夜のこと。父の話では、今回の入院は約1か月間を予定していると病院側から言われたそう。それ以降は投薬と2か月に一度のホルモン注射のみでやっていく。ただ、脊髄を圧迫骨折し、未だに起きて歩くこともできず、寝たままリハビリをおこなっているような父が、果たして1か月やそこらで退院などできるのだろうか?と家族の誰もが首をひねったのは言うまでもありません。母の不信感にも一理あり、「さすがにそれはないんじゃない?」と返事をしたものの、わたしも、心の底では、どこか釈然としない感じをずっと抱き続けてきました。現主治医である病院長と父は、父が会社員時代からの(公私ともに)ねんごろな間柄。コロナ禍で、家族が医師との面談が思うようにできないのを良いことに、遺される女たちにショックを与えまいと医師に頼んで口止めをしている可能性だって完全には否定できないように思えました。

 

 

 父が退院するタイミングで、是が非でも実家に帰省しようと考えていますが、東京のコロナ感染状況も(当然のことながら)無視はできず、まだまだ足踏み状態です。病気の進行状態の正確な把握や、介護の方法のこと、その先にある介護申請のこと、不安に沈んでいる間もなく矢継ぎ早にしなければいけないことは降ってきて、頭と心がなんだかちぐはぐになりそう。

 

 

 こんな時に、本当にありがたいと感じるのは、既に介護を経験した友人たちからの生きたアドバイスです。介護をしていた当時の話を改めて聴かせてもらうと、「え?あの頃、そんなに大変な想いをしていたの?!」と、いかに自分が彼らが何気なく零していたであろう苦労や奮闘を”他人事”として眺めていたのかを思い知り、「近くに居たのに、何も気づいてあげられていなかった。労いの言葉のひとつもかけてあげられてなかった。本当にごめんなさい。」と心の中で謝りたいような、自分が情けないような気持ちでいっぱいになります。が、その一方で、いま、このブログをたまたま訪れ、記事を読んでいるあなたにとって、ここに書いてある内容がどうか”他人事”であってほしいとも願うのです。なぜなら、近しい家族が病気をしたり、看取りへと向かう道行は、どうあれ総じて辛い時間であることに違いないと思うからです。

 

 

 ”他人事”と書いて、ひとごと、と読みます。世の中にはこの”他人事”が溢れていて、”他人事”の数が多い分だけ幸せであれることだってきっとたくさんあるような気がします。そのことに善悪はないし、実際にわたしはなんだかんだ言っても、かなり幸せな日々をこれまで過ごしてこれたのだと思います。ただ、この頃、わたしにとって、この”他人事”の”他人”が”人間”と言う文字に置き換わりつつあるのを、冬が終われば春が来るのと同じくらいの確かさで感じています。

 

 

 ”人間事”と書いて、ひとごと。わたしより、一足早く、この”変換”を成し遂げた人たちに導かれ、助けられて歩む世界へと一歩踏み出したわたしは、もうかつての”他人事”の世界へは後戻りできなくなってしまいました。想いと努力次第で”何事も為せば成るはず”、いのちやたましいの世界のことでさえも・・と根拠なく信じていたかつてのあの世界へ。

 

 

 

あけがたにくる人よ

あけがたにくる人よ

  • 作者:永瀬 清子
  • 発売日: 1987/05/01
  • メディア: 単行本
 

 

 先日、永瀬清子の『あげがたにくる人よ』を読んでいた時、こんな詩を見つけました。

 

 

若さ かなしさ 

 


東京の小さい宿に私がいた時
あの人は電話をかけてきて下さった
あの人は病気で私に会いに来れないので
それで電話で話したかったのだ  

 

 

 

かわいそうにあの人はもう立てない病気
それでどんなにか私に会いたかったのだ
こんどはどうしても会えないよと
とても悲しそうに彼は云った  

 

 

 

あの人は私よりずっと年上だし
学識のあるちゃんとした物判りのいい紳士
そんなに悲しい筈はないと若い私は思っていたのだ  

 

 

 

過ぎゆく人間の悲しさを
私はまだ思いもせずに
長く長く電話で話す彼に当惑さえしていた
そして片手の鉛筆で
何か線や波形を描いていた  

 

 

 

枯れ葉のように人間は過ぎていく
その時瀕死の力をこめて私を呼んでいたのに
そして波のように私にぶつかりなぐさめられたかったのに
「人間ってそんなものよ」「病気ってそんなものよ」 

 

 

私はああ、恐ろしいほどのつめたさ
若さ、思いやりのなさ
そそり立つ岩さながら  

 

 

私を遠くからいつもみつめていたそのさびしい瞳に
それきりおお 私は二度と会うことはなかったのだ 

 

 

 

 

 

”他人事”の世界で、あらゆることを分かったふうに居丈高に振る舞ってきた自分をそこにまざまざと見たようで、背筋が寒く、凍りつきそうでした。

 

 

 

 

 

きょうも、最後までお読みくださり
ありがとうございました^^
さとうみゆき